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門脇と瑞垣と

まだ心に君がいる。アホくさと舌打ちした。小憎らしげに鳴った音に不思議そうに振り返る目の前の男にも舌打ちしたくなった。聞こえなくていい音だけいつも拾う。お節介虫が。
「まだ心に君がいるんだ、と」
電柱に貼ってあるポスターを一瞥する。ああと合点のいく顔で海音寺が頷いた。
「門脇のことか」
>まだ心に君がいる。

つん、と首筋に指を押し当てられてビックリしてしまう。
「なんや俊」
「なんでもねえよ」
上機嫌な顔で
「ここにな花びらあるだけや」
「?」
「お前は知らなくてええ」
「?」
そうして一瞬だけ首筋に触れて離れる。指とは違う柔らかな感触。薄ピンク色の花びら1枚、そこにあることを知るのは1分後。

やることのあるヤツは忙しい。
「試合近いけん」
首に近所の酒屋のタオルひっかけて手には金属バットとグローブ。そして
「ほら俊」
当たり前のように渡される、白球。
「なんやこれ」
「みてわからんか?ボールじゃ」
「そんくらいわかるわ。俺に付き合えと?」
「暇じゃろ」
ちっと舌打ちする
>この、リア充が

触れることは、怖くない。
名を呼んで指を伸ばせばいつでも触れられる距離にお前がいる。
「秀吾」
「……うん、なんや俊」
ほら。こんなふうに。他愛なく触れて他愛なく口づけをかわす。言葉などなくていい。…いや。
(言葉は俺を暴くから)
隠したい醜い思いを今日も口づけで隠す。
>愛する臆病者

太陽と土のにおい。
お前に抱かれていると決まってそのにおいがする。
(お前の場所)
日の光に焼けた土の上。ぬるい風とじっとりと汗ばむ肌の感覚。ほんの数秒の一瞬を捕らえるあの目。
(忘れてしまえるなら)
どんなに、いいか。俺の居場所はいつもお前の後ろ。心はお前の横で在りたいのに。
>僕の居場所

倉庫入口

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