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梅&南

野球小僧の手にはマメがつきものだ。
バットを振り抜く手。
ボールの縫い目を掛ける指。
野手だろうが投手だろうが関係無い。
練習をすればするほど手には血マメが出来るものだ。
努力の証だ。
その痛みも、何もかも、やってきたことがその手に、でる。
「ほら、これでいいだろう?」
パタンと閉じた救急箱。穏やかに笑む南朋の言葉と潰れたマメだらけの手を包む細い指。
「…お前は?」
「僕は平気」
「ホントかよ」
「疑り深いなぁ梅宮は」
ほら。
広げられた手。車イスの車輪を掴む手。掌に斜めに走るマメの痕は、南朋の努力の証。
痛みに耐えて車輪を回し前に進んできた南朋の決意。
同じなんだ。
同じなんだと、この手を見るたびに思う。
俺の手にバットを振り抜いてきた、ボールを投げ込んできた痕が残っているように。
形は違えど南朋の手にも、証がある。
南朋の手を知っている。
俺達と変わらないマメだらけの南朋の手を。
「負けらんねぇなぁ」
呟きにも似た決意の言葉に南朋がふわりと微笑んだ。


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