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キヨハル&アキラ

空に 星が 流れる。
「ほら、流れた」
星の瞬く夜空の一点を、痩せた細い指が指す。
イヒヒと調子のはずれた甲高い笑い声を上げて、薄い肩が揺れた。
「思い出すなあ。小さい頃はね、こうして空を眺めて流れる星に願い事を唱えたものだよ」
アキラの胸に預けている背を弓なりにのばして、キヨハルが首を伸ばした。その白髪の頭がアキラの胸にこつんとあたる。目線が合って、無邪気にその目尻が緩んだ。
「三回。唱えるんだ。一瞬だから難しくて早口言葉みたいになってね。よく舌を噛んだよ」
そうして口元の笑みはそのままに瞼を閉じて小さな祈りを、ひとつ口ずさむ。
開いたその目にうつるのは満天の星空。砂に冷えた濁りのない澄んだ大気を胸に吸い込んでキヨハルは呟く。
「元気かな救世主」
「元気で、いると思いますよ」
応えたアキラの低く穏やかな声音にキヨハルは満足げに微笑む。
「今度星が流れたらあの子の願いも叶えてもらおう。…僕たちみたいにさ」

僕が、居なくなったら。
「君はどうするんだろうね」
たわいない問いかけの、その真意はなんて残酷。
「変わりませんよ。貴方がいてもいなくても、私は私のままです」
それは貴方が望む言葉。
私の、覚悟。
ただ。
「…貴方の代わりに、私がここで祈りを捧げるだけです」
>君と僕の終末論

蝋燭のかそけき光の中にいる。
指の先ほどの大きさの炎が揺らめいた。
光は細くか弱く周囲を薄明るく照らしている。
息を吹きかけるだけでたちどころに消えてしまう儚さを持って。
(まるで人の命のように)
無数の燭光が灯る床に座り込んで口にするのは鎮魂の祈り歌。
かそけき光の中の清らかな時間。

プルート城の中は予想より広くて、私は貴方を探すのが大変です。
困った顔をしてみせると、そうかい?僕は探検気分で面白いよって貴方は事も無げに笑う。
扉のない部屋をあっちこっち。入れ違いになることも。かくれんぼか鬼ごっこのよう。
「迷子だけは気をつけてくださいね」
「…君もね」
>入れ替わり

蒼空を見上げている。
雲一つない蒼いだけの空を最近はよく見上げている。
「またひとつ思い出したよ」
「…はい」
「僕はずっと彼に酷いことをしていたんだね」
そっと正面から抱き止める腕は温かく、そして酷く優しい。彼でない男の胸に顔を押しつけ言葉を零す。
「ごめんねケンジ。ごめん」
>本物と偽物

倉庫入口

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