真田&順平
誰だって、痛いのは、怖い。
これからよろしくな。差し出された手に一瞬怯えたことを、あの人は気づいてもいない。
(あの手は)
拳を形作る。
(あんなに細くて、色が白くて綺麗な指してんのに)
人を、殴る。
(ボクシングって)
それ、単にスポーツにかこつけて人を殴ることを正当化してるだけじゃないんすか?手っ取り早く強くなる為っていったって。
(人を殴るスポーツはないでしょ)
「真田サン」
警戒心なんて欠片もない無防備な背中に呼びかける。
負けることを恐れないファイターのくせに、懐に入れた相手には惜しげもなく素の真田明彦を曝け出す。卑怯だと思う。他人にも自分にも厳しいくせに、こんなにも簡単にこんな俺にさえ優しい素の顔を見せる。
自嘲し、振り返る真田の胸元へ腕を伸ばした。首元、きちんと結ばれたタイに指を絡ませ力任せに引き寄せる。
突き飛ばされはしなかった。呆気にとられてされるがままなのかもしれない。それならそれでいい。
(ね、真田サン)
今、交わした甘いキスの余韻の残るこの唇で、アンタが無様に負けるところが見たくて仕方ないって言ったら。
(真田サン)
俺のこと、その拳で殴りますか…?
