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「あてどのない道を君といつまでも」より抜粋

(また夏が来る)

容赦なく焼きつけるような陽射しの下、熱気と研ぎ澄まされた視線。
まっすぐに何の迷いも躊躇いもなく向かってくる、痛いほどの。

たくみ。

唇だけ動かして彼の名を胸に刻む。
まるで呪文だ。
唱えれば心の中から何かが湧き上がってくる。静かに。けれどどこにも逃げも隠れもできない、何もかも暴かれ容赦なく目の前に曝け出される、己の力のなさも醜さも全て正面から受け止める覚悟はあるのかと迫る、何かが。

後悔を、するなと忠告をしてくれた人がいた。

あの人は、では、後悔を、したのだろうか。
 逃げることに。正面から受け止め傷ついてもなお、逃げるなと、忠告してくれたあの人は、何に傷つき、何を後悔したのだろう。
今となっては、それを問うこともできないけれど。

なぜ、今になってあの人が巧の球を受けたいと、自分の感触が知りたいのだと言ってきたのかは、わからない。

『笑えよ、永倉』

天藍。空を指さし、こういう空を、そう呼ぶのだと教えてくれた。青く広がる透きとおった空を。
あの人はあの人なりの自分の立つべき場所を見出せたのだろうか。
笑っていた。
良く自分たちにみせていた、皮肉でときに残酷な笑みではなかった。こういう顔もする人なのだと、呆然とその横顔に思った。
あれが、あの人の答えだったのだろうか。
では、自分は。
自分のあるべき場所は。

夏の陽射しと同じように、容赦なく照りつけ焦がす、あの一球と共に。


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